誰も知らない彼女

代償


家を出てから1時間。


バスと電車を乗り継いで、ようやく悠くんの家の別荘までやってきた。


別荘に着いたまではいいけど、悠くんと磐波さん以外の誰かがいる気配がない。


毎月誰かがここに来ているようで、別荘の外壁や中の部屋などは荒れていない。


私がこの別荘に最後に来たのは小学4年生。


じつに7年ぶりの来訪ということになる。


って、いつまでもこんなところで突っ立っている場合じゃない。


今、私がいるのは別荘の前。


裏山まで行くには、のぼり坂があるため最低でも数分はかかる。


自分に息を整えるひまをいっさい与えることなくのぼり坂へと向かう。


しかし、のぼり坂はいつ来てもきついな。


小学生のときもここを登ったけど、何度も休憩しながら登っていったのを覚えている。


そんな私に対して悠くんは、昔から運動神経抜群だったため軽々と登っていた。


『抹里、大丈夫か? えらかったら無理しないでリタイアしてもいいんだぞ』


『ううん、リタイアしない。だって、悠くんと一緒に裏山の頂上まで登りたいから』


悠くんと登ったときにした会話が、目を閉じると頭の中でよみがえってくる。


いい思い出だったな。


7年たって悠くんは大学生になって、私は高校生になったから、裏山に登ることはおろか、別荘にも来なくなったんだ。
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