誰も知らない彼女
ただでさえ不気味な雰囲気があるこの裏山でそんな音が聞こえたら、びっくりしないわけがない。


今、こっちに向かって歩いてくるのは誰?


疑問に思ったが、耳に響く足取りに聞き覚えがあった。


もしかして……。


「……悠くん?」


「よくわかったな、抹里。そう、悠汰だよ」


うしろを振り向かずに誰かを当てたからか、うしろから聞こえる悠くんの声が少しびっくりしているかのように感じた。


そうだ、やっぱり悠くんだ。


なかなか悠くんのいるほうに視線を向けない私に、悠くんが私を追い越して私の前にやってきた。


それと同時に私は目を見開いた。


「そ、それ……!」


人さし指で悠くんを指さしたのは、悠くんの服装と持ちものに違和感を覚えたから。


普通の私服のはずなのに、その服は拾った落ち葉と同じような赤黒い水玉模様ができている。


そして、とくに目をひくのは悠くんの右手にある銀色のなにか。


先端部分が鋭くとがっていて、私の体温をグッと下げる。


これがなにもついてない普通の折りたたみ式ナイフだったら、どれだけよかったことか。


それはまぎれもなく折りたたみ式ナイフだが、そのナイフには磐波さんのものらしき血が柄の部分までベットリとついていた。


青ざめてあとずさる私に、悠くんがこの場面に似合わない笑顔を見せた。
< 370 / 404 >

この作品をシェア

pagetop