誰も知らない彼女
「あ、あのさ、私が高校に入ってはじめて会ったときのこと、覚えてる?」


「うん。あれは鮮明に覚えてるよ。ゲーセンの近くのアイスクリームワゴンのベンチに抹里が座ってたときだよな」


「そう。そのとき、悠くんは昔からずっと片想いしてる相手がいるって言ってたよね。それって、いったい誰なの?」


首をかしげて聞くと、悠くんがクスッと笑い、なぜか爆笑しはじめた。


笑う理由がどこにあるのか私にはわからない。


眉間にシワを寄せたタイミングで、悠くんが目尻に浮かんだ涙をぬぐいながら答えた。


「あはは。そんなこと、まだ気づいてないの? 抹里ってば鈍感だな。俺の好きな子は抹里しかいないでしょ」


嘘。


さっきの言葉が夢でありますようにと心の中で祈った私の願いは、あっけなく散った。


まさか本当に、私を恋愛対象として見ていたなんて……。


再び驚く私に、悠くんが目を伏せた。


「中学や高校に通ってたときも何人かに告白されたけど、抹里への想いは変わらなかった。告白してきた子と付き合ったら抹里とは話せなくなると思って、告白を断ったんだ」


「で、でも、私たちはいとこ同士だよ? 恋人同士になれるわけがないじゃん」


「だからなんだよ。べつにいとこ同士で付き合ったり結婚してはいけないっていう決まりはないだろ? だったら抹里を恋愛的な意味で好きになってもいいってことじゃないか」
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