誰も知らない彼女
私に恋愛的な意味で好意を寄せているという発言に動揺しながらも言葉を返したが、その直後に目を伏せていた悠くんがバッと顔をあげてこちらを見てきたので思わずあとずさりをした。


こちらを見つめる悠くんの目が怖い。


こんなの、今まで見てきた悠くんじゃないよ。


まるで数日前の幹恵を見ているかのような感じがして、恐怖感が襲ってくる。


殺人犯だとみずから自供した幹恵とまったく同じ目をしている。


狂った笑顔、相手を恐怖のどん底へとおとしいれる視線、似合わないほどにおだやかな口調。


人は笑顔でいるほど素顔がわかりにくいと聞くが、それはどうやら本当だったみたいだ。


同じ血をわけたいとこが相手ならなおさら。


悠くんとの距離を2メートルに広げたところで、悠くんが再び口を開く。


「そういえば抹里。前に、視線を感じるとか言ってたよな?」


「……っ⁉︎」


えっ⁉︎


なんでそんなこと、悠くんが知ってるの⁉︎


ひとりで歩くときにうしろから視線を感じるということは、親友だった由良しか知らないはずだ。


親友しか知らないことを悠くんが知っているのは、もしかして……。


「なんでそのこと知ってるか教えてあげようか? 俺、じつは抹里と再会する前に、抹里の留守を狙って部屋に盗聴器をしかけておいたんだよ。そして抹里が悩んでいた視線の正体も俺」
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