誰も知らない彼女
お願いだから、私に恋愛的な意味で好意を寄せるのはもうやめて。


こんなに重い愛情、いくら気心が知れた関係でも受け止められないよ。


ナイフを持つ手の力がさらに入った直後、悠くんが我に返って「……ふっ」と不敵な笑みを見せた。


どうしてまた笑うの?


頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。


「そっかー。できれば抹里と恋人同士になりたかったけど、まぁいっか。倒れてる男、俺に心臓を思いっきり刺されたから生き返ることはないだろうな。抹里が来る前にこの男殺しておいてよかった」


えっ?


今、なんて言った……?


『殺しておいてよかった』?


なんで?


なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?


なんで悠くんは余裕そうな笑みで『殺しておいてよかった』って言うの?


『お前の好きなやつはもうこの世にはいないから、俺と結ばれる可能性はまだ十分に残ってる』


口では言っていないけど、悠くんの表情からそんな言葉が聞こえてくる気がした。


でもね、悠くん。


いくら私の好きな人をナイフで刺して殺したって、私は悠くんを恋愛的な意味で好きにはならない。


ただ単に悠くんは、法に背くことをして罪をおかしただけ。


人を刺しただけで、いい運命がめぐってくるわけがない。


むしろ、悠くんの未来はもっと絶望的なものになっている気がする。
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