誰も知らない彼女
歩くペースが速くてついていけなくなりそうだ。


引っ張られたような状態で夜の道を歩いていく。


手がしびれるように痛い。


痛いと思ったが、こんな遅い時間まで磐波さんがついてきてくれたので、文句など言えるわけがなくて黙るしかない。


と、不意に磐波さんが足を止めてこちらを振り向いた。


あまりに突然のことだったのであとずさりをしそうになる。


「……ごめん」


えっ?


そう言われても、なんて返せばいいかわからない。


なにに対して謝りたいんだろう。


「あそこまで行く道であんなこと言って、変な思いさせたから、ずっと気まずかったんだよな」


合コン会場だったレストランまでの道で、若葉とあまり関わらないほうがいいと言われたことに対して謝りたいってこと?


たしかに気まずくなったのは、合コン会場までの道で磐波さんの言葉を聞いたからだけど、決して磐波さんが悪いというわけではない。


心の中ではぶつぶつとつぶやくが、口を開けて話さない。


黙り続けている私の顔を見て、磐波さんはさらに言葉を続けた。


「当たり前だけど、君とは初対面だし知らないことはたくさんある。朝丘若葉のことも俺はほとんど知らない」


うん、そうだよね。


会ったばかりの人が自分のことを怖いくらい知っていたら恐ろしく感じるもん。


やっぱり若葉は磐波さんとは初対面なんだね。


「そのことに気づく前に、君にあんなことを言ってしまったことは本当に申しわけない」
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