誰も知らない彼女
ふたりは笑顔を絶やすことなくこう答えた。


「あぁ、自習のこと? なんか、1限の授業担当の先生が今日一日出張なんだって」


「どうしても外せない用事があるから、今日は学校に来ませんって学校に連絡が入ったらしいよ」


そうなんだ。


たしか1限は英語表現だったはず。


このクラスの英語表現を担当している先生が今日学校にいないってことか。


「このまま立ってるのもなんだからさ、とりあえず席に座ろっ」


私のカバンを持って先に進む由良。


今朝の一緒に行く約束のこと、根に持ってるかな。


そう思っているせいか、なんとなく由良に話しかけづらくて黙ってしまう。


わけもなくあたりを見まわしていると、ひとつだけ席が空いていた。

そのことを隣にいる秋帆に聞いてみることにした。


「ねぇ、秋帆」


「ん? なに?」


「あそこって誰の席だったっけ?」


「あそこの席? 朝丘の席だよ。ホームルームで朝丘が遅刻するって担任が言ってたから」


若葉の席か。


若葉の席を今まで意識しなかったから、空いている席が若葉の席なんて知らなかった。
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