誰も知らない彼女
今開いている電話帳を由良に見せた。


私のスマホの画面と数秒にらめっこしたあと「本当だ……」とつぶやいた。


由良の様子を見て、隣の子も「見せて見せて!」と私をうながす。


その勢いに圧倒されて、画面を隣の子に見せる。


「えぇ、本当だ! 本当に朝丘さんの番号とアドレスが入ってる!」


興奮気味にスマホを見るその子の声が大きくなったことにすぐに気づき、慌てて彼女の口を手でふさいだ。


隣の子の声でクラスメイトの大半が一斉にこちらを見たが、私が彼女の口を手でふさいだので再び教室が騒々しくなる。


雰囲気を壊さなかったことに胸を撫でおろす。


呆然とする彼女から少し離れ、理由もなく若葉に電話をかけた。


しかし数十秒たっても若葉が電話に出ることはなく、規則正しい機械音しか聞こえてこない。


もしかしたら今、彼女は電話に出られないかもしれない。


心の中の自分にそう言い聞かせたと同時に予想外の声が響いた。


『おかけになった電話番号は現在、使われておりません』


えっ?


規則正しい機械音のあとに聞こえてきた、若葉とはまったく違う声。
< 50 / 404 >

この作品をシェア

pagetop