誰も知らない彼女
由良が怒っているのは手に取るようにわかる。


顔を真っ赤にさせているだけではなく、よく見ればいつの間にか作った握り拳が震えている。


由良、そこまで考える必要はないと思うよ。


由良の怒りの意味がよくわからなくて、首をかしげるしかない。


だけど、由良と隣の席の子は若葉に対して相当な怒りを持っているようだ。


「本当許せない! 抹里ちゃんをおとしいれようとするなんてさ。朝丘さんは最低だよ!」


「うん、朝丘はマジ最悪! 人間として最低なことしてるもんね!」


若葉が私に嘘の番号を教えたという証拠がないのにもかかわらず、ふたりは若葉が嘘をついていることを前提に思い思いの言葉を交わしている。


若葉が私に嘘をついているなんて、ありえないと思う。


私がふたりの言葉に黙っていると、突然由良が不敵な笑みを見せた。


「私、考えたんだけどさ……抹里を騙した朝丘を一日中シカトし続けるっていうのはどう?」


由良は今なんて言ったの?


若葉を一日中シカトし続ける?


その言葉に目を見開いた。


「あっ、いいね〜。でもシカトだけじゃ反省しないかもしれないから、バレないようにいじめてもいいんじゃない?」
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