誰も知らない彼女
隣の席の子の声があまり聞こえなかったので彼女がなにを言ったのかわからないけど、スマホの番号の件でふたりが若葉に恨みを持ったのはわかった。


だけど、どうしても私は若葉が嘘をつくとは考えられなかった。


「それのほうがナイスアイデアかも。そうしたほうがあいつはちゃんと反省するからね」


「じゃあさ、もう今日からはじめちゃおうよ〜」


「えぇ、マジ?」


「うん、やっちゃおうよ!」


若葉のことについて考える私を尻目に、嬉しそうに話すふたり。


若葉のことを考えているせいで、ふたりがなにを言っているのかあまり聞き取れなかった。


だが、ふたりは私を完全にスルーして、さらに会話を続ける。


「だったら秋帆たちにも言ったらいいんじゃない? 絶対に朝丘へのいじめに協力するでしょ」


「あっ、そこまで考えてなかった。さすが由良」


「へへっ、私は抹里という大事な親友を守るためならなんだってするからね」


ふたりの会話を聞き流して頬杖をついていると、ふと見た視線の先に若葉の姿が見えた。


どうやら若葉が遅刻というのは間違いないようだ。


若葉は誰かの車から降りて、校門に向かって歩いている。


学校の敷地内の駐車場から校舎までは歩いて5分くらいかかるので、教室に来るのは1限の授業が終わるころだろう。
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