誰も知らない彼女
情けないと思っているのに、若葉が嫌がらせを受ける状況が続けばいいのにとも思っている自分がいることに気づく。


どうしてだろう。


理由は、考えれば考えるほどわからなくなってしまう。


私が心の中でそうつぶやいたと同時に、私を囲んでいたうちの何人かが涙を浮かべたままの若葉を取り囲んだ。


「あんたさ、よくそんなことができるよね。ねぇ、なんでさっさと認めないのよ」


「涙なんて演技でしょ? 私たちに泣いていると思わせるように泣いてるフリしてるんじゃないの?」


「あー、やだやだ。クラスにひとりそういうやつがいるけど、そういうやつって超ウザいんだよ」


「調子に乗るなよ、性格ブスが」


今まで若葉と仲よくしていたせいか、若葉への罵声はとどまることを知らない。


若葉にかけられる言葉は、すべて彼女の精神的にダメージを負わせるためだと由良たちが言っていたが、彼女を傷つけるなんて怖くてできない。


たとえ相手が若葉でなくても、きっと私はそう思うだろう。


だけど、クラスメイト全員が若葉への嫌がらせに加担している限りは誰にも言えないのだ。


首謀者である由良たちにも、本心を包み隠さずに話すことなんてさすがに無理だ。
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