誰も知らない彼女
少しばかりの不安を覚えながら、こくんとうなずいた。


ネネは秋帆になんて伝えたんだろう。


心の中でそうつぶやいたが、あとで聞けると思い、口をつぐんだ。


ネネが秋帆に電話をかけた数分後。


近くの階段から急ぐ足音がふたつ聞こえてきて、私たちの前に姿を現した。


由良と秋帆だ。


ふたりは急いで来たせいか、苦しそうな顔で大きく呼吸を繰り返した。


ふたりとも運動が苦手だったんだっけ。


それだったらゼェゼェ言っても仕方ない。


「はぁ……っ、はぁ……っ。ね、ネネ……話ってなによ……」


近くの手すりに左手を置き、右手を胸に置きながら言葉を少し詰まらせる秋帆。


その間に由良は息を整えて、ネネの手の中にあるメモのような紙切れを手に取った。


「…………」


紙切れを見てすぐに由良が険しい表情になったのがわかった。


内容を見て、それを書いた人物が若葉だと理解したのだろう。


目線が下にいくにつれて、由良は紙切れを握る手の力をだんだんと強くしていった。


それでも怒りをなんとかおさえて、破れそうになる紙切れを秋帆に渡した。
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