誰も知らない彼女
小さい紙切れが視界に入ったらしく、ようやく息を整え終わった秋帆がその紙切れをじっと見つめる。


「……なによそれ」


「読んでみればわかるよ」


由良の言葉に渋々といった様子で紙切れを受け取る秋帆。


この場にいる全員が唾をゴクッと飲み込み、緊張した面持ちで秋帆を見守る。


やがて秋帆も、受け取った数十秒後には手から震えを見せはじめた。


顔も真っ赤で、由良と同じ気持ちでいることは理解できる。


そしてすべて読み終わった秋帆が紙切れをビリビリに破き、破れた紙切れが紙吹雪となって廊下を舞った。


紙切れはただのゴミとなってしまった。


目を見開いて紙吹雪と化した紙切れがすべて廊下に落ちたのを確認すると、私は秋帆のほうをゆっくりと見た。


全身から怒りがあふれているのが嫌でもわかる。


「はぁ……はぁ……あの女、マジで許せねぇ……。抹里をなんだと思ってるのよ……」


若葉の書いた内容が相当気に食わなかったらしい。


私以外の全員がなにも言わずに静かに黙っている。


私以外の全員が黙っている理由が知りたかったけど、言っても逆効果であることを理解していたので言えなかった。
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