誰も知らない彼女
「…………っ」


背中に変な汗がはうように流れるのを感じる。


それくらいピリピリした状況だった。


ここにいる全員が黙り込んでしまった数十秒後、やっとで誰かの口が開いた。


「……どうする? 朝丘が抹里に腹の立つ手紙書いたから、もっと痛い目に遭ってもらわないと気が済まないよね」


由良だった。


ネネや他の子たちは口をつぐんでいるが、由良と同じ意見だとでも言うようにゆっくりとうなずいた。


怒りの熱が放出されたせいか、秋帆も落ち着いた表情を見せた。


「……そうね。こんなのを抹里に送ったって許すわけがないって言ってやりたい気分だし……」


怒りをしずめても、自分が抱いている気持ちはまったく変わらないようだ。


ネネも、周りにいる子たちも首をうなずく。


どうして?


若葉は自分が悪いと反省して、私の机に書いた手紙を入れたのに。


由良たちにはまだ反省していないという感じに見えるのかもしれない。


私はそう思えないんだけど。


彼女は彼女なりに謝っていたのだからそれでいいんじゃないかな。


周りの子たちは由良と秋帆の言葉に賛成するが、私だけは黙っていた。


心の中に抱いている思いを誰にも言えなかっただけで……。
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