誰も知らない彼女
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ガタンッ! バンッ!
昼休みになった途端、秋帆が若葉の席に歩み寄り、突然若葉の机を強く叩いた。
大きく響いた音に若葉が耳をふさいで目をギュッと閉じた。
「きゃ……っ!」
小さく悲鳴をあげた若葉だが、教室にいるクラスメイトたちは見て見ぬフリを決め込んでいる。
チラチラと若葉のほうに視線を向けるクラスメイトもいるが、その目はすべてさげすみを表しているように感じられた。
「あんたさぁ、なめてんじゃねぇよ」
目をつり上げてギロッと若葉を睨む秋帆の姿は鬼を思わせる。
秋帆の顔を見て小さく震える私など尻目に、私以上に体を震わせている若葉を見てクスクスと笑っている由良。
ある意味、ふたりが悪魔に見えた。
当然そんなことを言えるわけがないので口をつぐむことしかできない。
視線の先にいる若葉はおそるおそるといった感じで目を開けて秋帆に視線を向ける。
「な、なめてるって、なにを……?」
本気でそう思っているらしく、カタカタと歯まで震わせている若葉。
若葉が耳から両手を離したタイミングで、秋帆が若葉の襟首をグイッと強く掴んだ。
「ぐ……っ!」
顔を真っ赤にさせて怒りを見せる秋帆に、若葉はほんの少しの抵抗を見せる。
若葉もまた顔を赤くさせている。