誰も知らない彼女
抵抗を見せる若葉をそっちのけに、秋帆が若葉の襟首を自分のもとへ引き寄せた。


「あんた、私の顔見てなんとも思わねぇのかよ‼︎ こっちはあんたのせいで腹が立ってんだよ! あんた、学年で一番賢いんだったよね? なら、私があんたに怒ってる理由答えろよ! 具体的にな!」


「…………っ!」


秋帆が襟首を引き寄せたときに握る手の力がさらにこもったのか、なにも言えずに目をつぶる若葉。


だがそんな若葉などおかまいなしに、彼女に対する悪口は止まらなかった。


「そーだそーだ」


「あの顔見てもなにひとつ感じないなんて、頭おかしいんじゃない?」


「あぁ、完全にバカだなあいつ」


「学年で一番賢いなんて絶対コネだよね。本当朝丘若葉って最低な女、悪女だよ」


「そういえば榎本さんとの点数差が大きかったけど、もしかしてカンニングしたんじゃないの?」


「げっ、きったねぇ! 姑息な手使うなんて、マジ最悪だな」


クラスメイトは完全に手のひらを返したような態度で若葉に暴言を吐いている。


ダメだよ。


若葉を傷つけたら、クラス全員のところにも悪いことが返ってくるから。


なんて言えない。言えるわけがない。


若葉をかばいたい気持ちは十分あるけど、かばったあとの全員の反応を見るのが怖いから言えない。
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