誰も知らない彼女
顔を青ざめる私を尻目に、秋帆が若葉の襟首から手を離し、今度は若葉のみぞおちに向かって拳を飛ばした。


力強く握られたその拳は、若葉のみぞおちにクリーンヒットした。


「がは……っ!」


勢いよく拳が当たったせいか、目を見開いて激しく嘔吐する若葉。


嘔吐物から放たれるなんとも形容しがたいにおいに、思わず鼻をつまむ。


こうなることをさすがにわかっていたらしい秋帆はすぐに若葉から離れた。


「うっわぁ、きったねぇ! マジ気持ち悪っ! 私のスカートについたんだけど!」


だけど完全に離れる前に若葉が吐いたものが制服についてしまい、膝上までのスカートをパタパタとあおる。


若葉の嘔吐物を見て、由良が私の背中に隠れた。


「キモッ……」


由良もまた顔を青ざめている。


もちろん、嘔吐物を見てあとずさるクラスメイトは少なくない。


「うわ、くさっ……」


「これって朝丘さんが吐いたんだよね? マジで気持ち悪い……」


「これからどうやって授業を受けるっていうの?」


「うえっ、なんでみぞおちを殴られただけで吐いちゃうの? キモい……」


「近づいたら絶対においが移るわ……」


若葉が教室で嘔吐したことで、ここにいる全員が真っ青な顔を見せた。
< 73 / 404 >

この作品をシェア

pagetop