誰も知らない彼女
ここに、若葉の味方は私以外誰もいなくなった。


私は若葉への嫌がらせに協力するつもりはないし、手助けできない。


本気で近づいたら危険な目に遭うかもしれない。


それはクラスメイト全員からの痛い視線を浴びることだけでなく、若葉が嘔吐したもののにおいが自分に移る可能性があると思ったからだ。


嘔吐物のにおいがついた制服なんて、きっと誰も着たくないだろう。


家族や他の関係者にもなにがあったんだと問いただされるだろうし。


私があれこれと考えているうちに、秋帆が私と由良のところにやってきた。


「抹里に由良、朝丘がマジで吐いたんだけど。気持ち悪くね?」


よつんばいになって息を整える若葉を指さして嫌そうな顔をする秋帆。


それに由良も同調する。


「うん。なんで吐いちゃったかな。朝丘、マジキモいんだけど……」


鼻をつまんで数歩あとずさる由良だが、道はクラスメイトでふさがれている。


チラッとクラスメイトのほうを見ると、同じく嘔吐した若葉を気持ち悪いものでも見たかのような目で睨みつけているのが見えた。


逃げられない。


完全にこの形容しがたいにおいから逃げられない。
< 74 / 404 >

この作品をシェア

pagetop