誰も知らない彼女
若葉が突然私を見て名前を呼ぶものだから、思わず身がまえしてしまった。


な、なんだろう。


若葉が涙目でこちらを見つめているのは、私になにかをしてほしいと思っているからだろうか。


そんなことを考えている私をそっちのけに、由良が若葉を思いっきり睨みつけた。


「ねぇ朝丘、まさか抹里に助けてもらおうとか思ってないよね〜?」


「あんたには味方なんてひとりもいないの。あんたなんて一生床を舐めてればいいのに。あんたと抹里は生きてる世界が違うのよ!」


由良の声に反応して、秋帆が由良の隣までやってきて腕組みをする。


クラスメイトも全員、若葉に冷たい視線を向けている。


このクラスに味方がいないと悟ったような目をしたあと、若葉が一度目を伏せて再び嘔吐した。


「……っ! ゔ、ゔぅ……っ」


嘘、また嘔吐したの……?


二度目の嘔吐を目の当たりにするとは思っていなくて、とっさに口を手でおさえた。


若葉が二度目に嘔吐したものを見て、ものすごい吐き気に襲われた。


一度見たときは我慢していたけど、今度は我慢できなかった。


やばい、こっちまで吐き気がする。
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