誰も知らない彼女
すれ違った人に突然、どうしてここにいるのかと聞かれたら、驚いてしまうだろう。


もしかしたら、言葉の選択肢を間違えたのかも。


「え、えーっと……」


さっき自分が言った言葉を訂正しようと口を開けたと同時に、磐波さんが焦ったように口を開けた。


「それは……朝丘若葉の様子が気になって……」


普段は落ち着いた雰囲気のある磐波さんがこんなに焦って言葉を詰まらせるなんてめずらしい。


その様子がおかしくて、小さく笑ってしまった。


私の笑い声が聞こえたのか、我に返ったかのように目を見開く磐波さん。


私も慌てて笑うのをやめた。


「ごっ、ごめんなさい! ま、まさか磐波さんがそんなに焦ってる姿を見せるなんて思ってなかったので……」


両手を顔の前に出してブンブンと思いっきり左右に振りながら言葉をまくし立てた。


我ながら失敗したと思った。


普段見せない表情や態度を見せない人に対して笑ってしまうなんて無神経すぎる。


そうだよね。


私ってば、なんて無神経なんだろう。


ネガティブな気持ちが体の中を支配していくのが嫌でもわかる。
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