誰も知らない彼女
たしか、秋帆は若葉のことを一番に嫌っていたはずだ。


なのにどうして若葉が学校に来ているのかどうかを聞いたんだろう。


今すぐにそのことを秋帆に問いかけようと思ったが、彼女を怒らせてしまうかもしれないのでやめておいた。


前屈をして軽く伸びをしていると、私の視界に体操着姿の若葉が映った。


若葉の体操着は、クラスメイトたちによって焼却炉で燃やされたはず。


きっと誰かの体操着を借りたのだろう。


よく見ると、胸もとや腕にあるエンブレムがこの学校のものとは違うものであることがわかる。


この学校の生徒から借りられないのは仕方ないことだけど、なんとなく目がそっちに行ってしまう。


かわいそうに。


若葉に哀れみの目を向けることしか、今の私にはできなかった。


「…………」


「あれ、抹里? なんでそんなとこ見てんの?」


若葉の存在を知らせようかどうか迷っている間に、由良が私の様子に気がついた。


ここでなんでもないと若葉をかばうべきか、本当のことを言うべきか。


口の開け閉めを繰り返して数秒で、秋帆も私の様子に目を見開いた。


「ま、抹里、いったいどうした? もしかしてなにか変なものでも見つけたの?」


「…………っ」
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