あなたしか見えないわけじゃない

私らしく

病院を退職した木村さんに、診療所の契約更新をしないで横浜に戻って洋ちゃんの側にいることにしたと電話で報告した。

その後、木村さんからいつ戻るのかと何度も確認のメールがきた。
具体的な日にちを連絡すると、あのピアニストの旦那様のコンサートの招待状が送られてきたのだ。

国際的ピアニストのコンサートなのに、大ホールではなくて、小さいコンサートホールだ。
お世話になっている人と限られたマスコミを招待して結婚発表というかお披露目をするらしい。

結婚してもうすぐ10年になる上に妊娠もしているというからみんなおどろくだろう。
その頃は妊娠8ヶ月位かな。ふふっ、会うのが楽しみ。

私もしっかりドレスアップして来るようにって言われたけど、どの程度なんだろう。
一緒に洋ちゃんも招待されている。洋ちゃんはスーツでいいだろうけど、私は?うーん。久美さんに相談だ。

あと1ヶ月と少し。
ピアノコンサートは私が島から戻ってすぐの日にちだ。
戻ったら、洋ちゃんのマンションで一緒に暮らしながら仕事を探すつもり。

先に2人の関係を報告した久美さんと洋ちゃんと相談して、まだ、お互いの両親には結婚の話をしないことにした。

話したら大騒ぎして先走って結婚式場を決められてしまう可能性もあるから。
もしかしたら、新婚旅行先まで決められた上に一緒に付いてきそうだ。
それより、海外挙式にされて一家総出で海外ツアーかも。

だから、まだ秘密。
私が島から戻ったら洋ちゃんと2人で報告に行くつもり。
みんな喜んでくれそうだ。
ホントにみんなで家族になっちゃうんだから。

洋ちゃんは毎日忙しいのに、必ずメールか電話をしてくれる。忙しいんだから毎日じゃなくていいって言っているのに『俺が志織と繋がっていたいんだ』って言われちゃったらもう連絡はいらないなんて言えないでしょ。
私だって嬉しくてニマニマしちゃうもん。

私の後任のナースも決まって、夜は毎日引き継ぎ資料を作成している。
訪問看護先の皆さんに迷惑がかからないように、スムーズに引き継ぎをしなくちゃいけない。そう思ったらかなりの量になってしまった。

もう少し頑張れば洋ちゃんとずっと一緒にいられる。
思えば、小さい頃からから大好きだった洋ちゃん。
回り道したとはいえ、そんな相手と結婚できるなんてなんて幸せなんだろう。
あれは私にとって必要な回り道だったんだろう。

周布先生や香取先生の事を考えると胸がズキズキするけど、私はもう前を向いて歩いて行くと決めた。
洋ちゃんの隣で2人で笑って過ごして行くんだ。たくさん甘えて、たくさん甘えさせてあげるんだ。
もう後ろは振り向かない。
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