あなたしか見えないわけじゃない
かわいい白ネコが女性だと意識したのは、横浜の病院に異動した時だった。

久しぶりに会った志織は25才になっていて、かわいい白ネコはキレイな女性に変わっていた。
大学病院のヤツらが噂するわけだ。

そして、周布先生が志織に興味を持って近づいていると聞いた。

周布岳
俺の大学の一期下。
大学時代から噂は聞いていた。
ボート部のキャプテン。背が高くイケメン。
直接の面識はないが、ミスキャンパスを含めて男女を問わず友人と一緒にいる所をよく見かけた。
評判は悪くない。

遊びでなければ志織の相手として悪くはないが。
志織はどう思っているのだろう。

自分だって今までも彼女がいたのに、どうにも志織に彼氏ができると嫌な気分になる。
志織と志織の彼氏関係の話はしたことがないし、俺が自分の彼女の話をしたことも無い。
その辺りはお互いに触れない。

そのうち俺は離島の診療所に2ヶ月間代理診療医として行かなくてはいけなくなってしまった。
大学時代から世話になっていた後藤先生が体調を崩して入院することになったからだ。

島から帰って来ると、どうやら志織は周布先生と付き合い出した様子だった。
噂だと周布先生の猛アタックに折れたとか。

どんな付き合いなのかは知らないが、志織が幸せならばそれでいい。
そう思っていたが、志織の様子が気になった。
志織の配置転換が決まった辺りから志織の表情がいつもと違う事に気が付いた。

合同送別会の席で志織の先輩ナースが俺を呼びに来た。
志織が酔って騒いでいるという。
「ちょっと手に負えないんでお願いしますね」
周布先生は今日欠席なんで、幼なじみのよしみで池田先生がお願いしますと言われたが。
少し複雑な心境だ。

志織の元に行くと、かなり酔っ払っていた。

「あー、洋兄ちゃんだぁ」
と甘えた声を出してにこにこする。
普段は院内で出会っても「池田先生」「藤野さん」と名字で呼び合っているのに。

「志織、飲みすぎだよ」
と注意しても反対に「洋兄ちゃんが隣にいてくれるんだ」と喜んでいる志織が昔と同じで可愛くて仕方ない。
酔って散々ぐずったり甘えたり。

そのうち人前なのに昔のように俺の膝にすり寄って寝てしまった。
おいおい、職場の飲み会だぞと思ったが、その日の送別会は杉山部長が特別注文したお酒のせいであちこちで泥酔者が出ていろいろな出来事があったらしいからまぁいいか。

志織が酔って羽目を外した姿は普段のクールなイメージを
壊し、周囲から概ね好意的に受け止められたようだ。

その後、志織がICUに異動になって俺と毎日顔を合わすようになった。
新しい職場でかなり頑張っているようだが、それ以上に志織の様子に違和感を感じる。
どうにも何かムリをしているように見える。
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