あなたしか見えないわけじゃない
姉と3人で過ごす最後の夜は家飲みをした。
しばらく志織にお酒を飲みすぎないよう言っていたけど、体調も良くなってきたようだし自宅だから好きなだけ飲ませたのがいけなかった。
姉さんが選んだ志織の部屋着は白ネコをイメージしたもので、フードには耳が、おしりにはしっぽが付いている。
初めて見たときには驚いた。
志織のイメージにぴったりだし、可愛すぎて目眩がしそうだった。
かなり酔った志織はフードまでかぶり、まるでネコのように俺に甘えてきた。
初めはおとなしく隣に座っていたのが、俺の腕に絡み付き顔をすり寄せたり、背中にもたれて歌を歌う。
そのうちラグに座った俺の脚の間に座って「洋兄ちゃんあーんして」と言い出した。
「志織、飲みすぎだよ」恥ずかしいからやんわりと断ると
「えーん。久美ちゃん、洋兄ちゃんがあーんさせてくれないよぉ」と姉に泣きついた。
「洋介、相手してあげなさいよ。」
「いや、ムリ」
「洋兄ちゃん、食べてよぉ。あーん」
という押し問答を繰り返し、結局負けて志織の「あーん」に応えるハメになる。
その後も志織の暴走は続いた。
「志織はこんなに酒が弱かったかな?」
姉に愚痴ると
「洋介がいるから、安心して酔っているのよ。あんたは可愛い白ネコに付き合ってあげなさいよ」
と酔っ払いの世話を押し付けてくる。
「志織、もうたくさん飲んだだろ。眠そうな目してるよ。そろそろ寝ようか」
酔った白ネコは可愛いいが、姉の前でデレデレするのも恥ずかしいから志織から酒を取り上げ眠らせることにしたのだが。
「洋兄ちゃんと一緒なら寝る」
は?いやいや、姉さんもいるしそれはムリだろ。
「志織。姉さんと寝なさい」
「やだ。洋兄ちゃんがいいの。洋兄ちゃん大好きだもん。洋兄ちゃんは志織が嫌いなの?」
大きな瞳をうるうるとさせて上目遣いで俺を見つめるのはやめてくれ。
姉を見るとニヤニヤしながらスマホで写真を撮っている。
「姉さんも志織も勘弁してくれ」
頭を抱えた。
ぐすっと志織が鼻をすりだした。
「洋兄ちゃんはしおが嫌いなんだ。結婚だって約束したじゃん。洋兄ちゃんの嘘つき」
「あら洋介。アンタいつしおちゃんにプロポーズしたのよ?」
姉が楽しそうに突っ込んでくる。
「ちょっと待って。プロポーズ?いつ?してないけど?小学生の
時とか?」
「洋兄ちゃんひどい。最近だもん。温泉の帰り」
「あ、あれか。…したね」
しました。50になっても独身だったら…ってヤツね。
「ほら、したじゃん」
「へー、したんだ。しかも最近」
姉はとても満足げな顔をした。