あなたしか見えないわけじゃない
姉は無視して、とにかく志織を寝かしてしまおう。
「志織、おいで」
右手を伸ばして志織の腕を掴もうとしたら、志織の方から飛びついてきた。

「洋兄ちゃーん」
うわっ。
志織は俺の首に両腕を回して抱き付いてきた。

「洋兄ちゃん大好き-!」
何と、潤んだ瞳でチュッとくちびるにキスをして俺の胸で自分の顔をすりすりとこすっている。

「あらあら。へぇー。ふぅん」
姉はニヤニヤしながらカシャカシャと数枚写真を撮っている。本当に勘弁してくれ。
できれば、シラフで姉のいない時にやって欲しい。

「志織待てって」
焦る俺はくっつく志織を引き離そうとした。途端に志織は泣き顔になり、
「やっぱり誰も私の事なんて好きになってくれない」
と言いだし、ギョッとする。

志織、それはあいつの事を言っているのか?
姉と目が合った。

「洋介」
「わかってるよ」

俺は膝の上にしっかりと志織を抱き直した。
ぎゅっと抱きしめて頭を撫で背中をさする。
「俺も姉さんも志織が大好きだよ」

「私も、しおちゃんが大好きよ」
姉も志織の頭を撫でながらチラッと俺を見たが、すぐに泣き顔の志織に話しかける。

「今夜は洋介にたくさん甘えなさいね。じゃ、私は先に書斎で寝るから。お休み」

そう言ってさっさと書斎に入ろうとする。
ちょっと待て、じゃ俺はどこで寝るんだ。

「洋介、ベッドで一緒に寝てあげなさいとは言わないけど、せめて同じ部屋で寝てあげなさいよ。あ、母さんに孫の顔を見せてあげるのもいいんじゃない?みんな喜ぶわよ。じゃ、お休み~」
笑いながら書斎に入って行ってしまった。
俺の「ちょっと待って」は無視。

志織は涙目で俺の膝に座り
「洋兄ちゃんは私が好き?」
と聞いてくる。

酔っているから、どうせ明日には覚えてないだろうけど、
「好きだよ。昔からずっとね。志織はどうなの?」
頬を撫でながら聞いてみる。

「私の方がずっと前から洋兄ちゃんが好き」
またしっかりと抱き付いて俺の首すじにキスをしてきた。
おいおい、志織さん、勘弁して下さい。
このまま押し倒したい気持ちをぐっと堪えて抱きしめて背中をさすっていると志織は寝息に変わった。

この腕の中にいる白ネコをもう手放したくない。
志織には悪いけど、あいつと別れてくれてよかった。
後は志織の気持ちを俺に向かせるだけだ。

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