あなたしか見えないわけじゃない

危険な彼 1

5月になり、病棟はバタバタしていた。
急な欠員で若手の独身ナースは夜勤が増えていた。

私はちょうど良かった。
夜勤ならあのイケメンドクターと顔を合わせず済むことが多いから。

あの歓迎会の夜から少し気まずい。

挨拶や仕事上のやりとりはするが、例えばイケメンドクターが1人でナースステーションにいる時は私はナースステーションには入らないって感じ。

今夜の夜勤のパートナーは木村さんと42才のベテランナース鈴木さんだ。

落ち着いたところでコーヒーを入れて休憩する。
病棟はしーんと静まり返りナースステーションには数台の心電図などのモニター音が規則的に響いている。

私はこの雰囲気が嫌いじゃない。
このまま静かに朝を迎えられるといいな。

そんなささやかな私の希望はすぐに打ち砕かれることになった。

「お疲れさまです」

イケメンドクターが入ってきた。
げっ。
そう思うのは私だけ。
木村さんと鈴木さんは嬉しそう。

「あら、先生。今日は当直当番だったかしら?」

「急だったんですけど、用事があって石田先生と交代したんです」

「そう、大変ね。先生もコーヒーいかが?」

「ありがとう、いただきます」

そう言うと3人共、私の顔を見る。
はい、はい、お茶くみは1番ペーペーの私の仕事ですよね。

「コーヒー入れてきまーす」

私は休憩室のコーヒーメーカーに向かった。

コーヒーを入れて戻ると3人は何の話なのか盛り上がっていた。

「どうぞ」

目を合わさずイケメンドクターの前にコーヒーを置く。

「ありがとう」

イケメンドクターはひと口飲むと顔を上げ、数秒じっと私の顔を見て、何もなかったようにまた木村さん達ともとの会話を続けた。

え?今の何?コーヒーまずかった?
でも、イケメンドクターは何も言わず、私に会話を振ることもなく、3人は三村先生の話などしている。

まぁ、あなたがこの場にいる限り私は積極的に会話に参加することはありません。
でも、空気を悪くしないように気を付けてにこやかにはしていた……つもり。



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