あなたしか見えないわけじゃない
「ツーシートのスポーツクーペって初めて乗ったよ。乗り心地もいいし、藤野さんの運転も上手だね。もしかして、AT限定免許じゃなくミッションも運転できるの?」

「はい。ミッション車もイケます。よくわかりましたね」

「僕の知り合いに車好きがいるから」

運転が上手だと褒められて下がりきった気分が持ち直した所でイケメンドクターのマンションの近くに着いた。

「マンション前に停めますから」

「ありがとう。ホントは部屋に寄って欲しいけど、このマンションの近くに駐車場がないんだ。残念だよ」

「そういう冗談は要りません。早く下りてくださいよ」

そういう言い方が嫌いなのよ。
また少しイラッとする。

「うん、また今度はタクシーでね。ありがとう。おやすみ」

シートベルトを外しながら私の左腕をぐっと自分の方に引っ張る。

身体が助手席に傾く。ギアはパーキングだし、サイドブレーキもかけているけど危ないじゃないの。

「先生、何するのっ、あぶ……」

自分に引き寄せていきなり私の頬にキスをした。

ひゃっ。

突然の出来事に驚いて変な声が出てしまった。

くすくすと笑いながら車を下りるイケメンドクター。

「ありがとう。ごちそうさま」

「もう2度とこの車には乗せませんからっ」

何てことするんだっ。
むっとしながら発進させる。

触れられた左頬が熱い…のは気のせいじゃないと思う。
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