あなたしか見えないわけじゃない

危険な彼 4

火曜日の夕方、外来に顔を出すと顔見知りの外来のベテランナース山里さんが笑顔で奥の休憩室に通してくれた。

「杉山部長、急に会議が入っちゃって。これ、藤野さんに渡してって預かっているわ」

そう言われて紙袋を受け取った。

「今、最後の患者さんなの。すぐに終わるからちょっと待ってて。お菓子をもらったから一緒にお茶しましょ」

「はい。これ見ながら待たせてもらっていいですか?」

山里さんは中学生のお子さんがいる明るくて楽しいナースだ。いつも歓待してくれる。

私に休憩室の椅子をすすめて「すぐだからね」と診察室に向かって行った。

その間に写真集を見せてもらおう。
紙袋から取り出すと、綺麗にラッピングされており『志織ちゃんへ』とメッセージカードが付いていた。

杉山部長が私に買ってきてくれたんだ。
何ていい人なんだろう。
嬉しさが湧き上がる。
きれいにラッピングを剥がして写真集を取り出す。

わぁ、きれい。
カリブ海だ。最初の数ページは遺跡ではなく魚達が泳ぐ写真だ。

夢中になってかじりつくように眺めていると、隣に誰か座ったことに気が付いた。

「海、好きなの?」

イケメンドクターだ。そうか、最後まで外来診療していたのはこの人だったんだ。

「ええ。大好きですよ」
素っ気なく答える。

「海水魚やサンゴは?」

「きれいですよね。昔、石垣島の海でシュノーケリングして感動しました。詳しくはないですけど、見るのは好きです」

「え、キミ、シュノーケリングするの?」

「するって程じゃありませんよ。したことがある程度です。両親がマリンリゾート好きで、子供の頃から家族旅行は海ってことが多かったんで」

「他はどこか潜ってる?」

「沖縄本島、宮古島、グアムやセブ島です」

「へぇ。結構行ってるね。スキューバもするの?」

「いえ、私はすぐに中耳炎を起こすので、シュノーケリングだけです」

初めてイケメンドクターと普通に会話する。

「先生は?」

「学生時代からスキューバダイビングをやり始めて何度か行ってたよ。このところは仕事が忙しくてご無沙汰だな」

イケメンドクターの趣味はダイビングか。やっぱり趣味も上等だ。

気が付けば山里さんが診察室の片付けを終えて戻るまでイケメンドクターと語り合っていた。

そして、なぜかイケメンドクターのお宅の海水魚の水槽を観に行く約束をしていた。
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