あなたしか見えないわけじゃない

交際は秘密にはしていないがオープンにもしていない。
院内では親しげに会話することはない。

普通の仕事仲間として接していたけど、そもそも2人の関係を秘密にしていなかったから、一緒に食事に行ったり私の車で出かけたりしている所をいろいろなスタッフに見られたりしていた。

それでも、あからさまに詮索されることもないから、周りから生温かい目で見守られているんだろうなぁと思っていた。



午後の業務をこなしていると病棟に三村先生が顔を出した。
ああ、今日は三村会の日なんだ。
木村さんを定時で帰してあげなくちゃ。

この時間はどこかの病室で処置に回っているだろうとナースステーションを出て探しに行こうとすると、三村先生とナースの話し声がわたしの耳に入ってきた。

「先週末に江ノ島であった大学のサークルの大会応援にOBで周布が来てたんだけど。
あいつ、赤のスポーツクーペに乗って来たんだ。
車は持ってないはずだと思って聞いたら借りたって言うんだよな。誰から借りたんだろ。知ってる?
在学中はボート部のキャプテンやってたし、やたら目立つんだよ。
その時だって女の子達キャーキャー騒いでいたよ『乗せて下さい』なんて言われてたし」

「赤のスポーツクーペって言ったら…」

先輩ナースの視線がナースステーションを出て行く私の背中に刺さっている気がする。
足早に廊下に出た。

るー君は「OBとしてサークルの大会応援に呼ばれた。ちょっと遠いから車貸して」と言ってた。

普段から車で出かけるときの運転はるー君で。運転技術は心配してなかったから「いいよ」って気軽に貸したけど、そんな所に行っていたんだ。
そういえば、夕方日焼けして帰ってきたな。

それにしても、
ボート部のキャプテンやってた とか
その日も女の子達にキャーキャー言われてた とか
以前も今も目立つ存在なんだ とか

私は何だか胸がもやっとした。
何とも表現しがたい。身体の中に薄曇りが広がっていった。

私はそんな人と一緒にいていいのかな。
付き合い始めて半年近くになるのに自分に自信がない。

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