あなたしか見えないわけじゃない
「ああ、今日は池田先生がいてくれてよかったわ」

木村さんが洋兄ちゃんを連れて来たらしい。

「今日はうち旦那さまが帰って来ているから藤野をうちに泊めるのはいやなの。お兄ちゃん、妹の世話よろしく」

「すみません、いつも志織が迷惑かけていて」
洋兄ちゃんが木村さんに頭を下げていた。

「えー、いつもじゃないもん」

「うるさい、酔っぱらい」
「志織は黙って」

「えーん、ふたりで同時に怒ったぁ」
しくしくと嘘泣きをすると木村さんに頭をはたかれた。

「志織、ちょっといいから、水を飲みなさい」

洋兄ちゃんにミネラルウォーターを渡されて、仕方なくごくごくと飲み干す。

「仕方ないからこの後は志織の隣にいて見張るからね」

「わーい、洋兄ちゃん一緒にいてくれるの?何年ぶり?」

「志織、違う、そうじゃないよ。送別会が終わるまでお酒を飲まないように見張るんだよ」

洋兄ちゃんはいつもの優しい洋兄ちゃんだ。にまにましてしまう。

「あら、やだ。池田先生、この子そのうち『今夜はお兄ちゃんと一緒にお風呂に入るーとか一緒に寝るー』とか言い出すんじゃない?」
木村さんがかわいそうな子を見るような目を私に向けて呆れたように笑う。

「まさか」洋兄ちゃんは苦笑して否定しているけど、あれ?入ったこと……あるよね。

「よ……」ムガッ

「志織、いいから少し黙りなさい」

洋兄ちゃんは左手で私の後頭部を支えて右手で口を手でふさいだ。

んー、んー。
私が抵抗すると「し、お、り」と眉間にしわを寄せて低い声を出した。
あ、ヤバい。
この言い方。洋兄ちゃん怒ってる。
酔っぱらいの私でもわかる。

慌てて首を縦に振る。
何度も振ったから気持ち悪くなってきた。

急にぐったりした私に驚いた洋兄ちゃんは手を離した。

「志織、おい」

「うーん、気持ち悪いし眠い」

瞼が重い……。









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