あなたしか見えないわけじゃない
ドクターからの指示受け作業をこなしていると思わずため息が出た。
はぁー。
「すごいため息だね、藤野さん」
えっ!誰かいたの?
驚いて振り返ると石田先生だった。
「驚かさないで下さいよ。いつからいたんですか?」
「今入って来たばかりだよ。誰もいないと思って油断した?」
くっくっと笑われた。
石田先生は33才。
丸顔で少しふっくらとした体型で見た目は優しそう。
残念ながらイケメンではない。
そして仕事は厳しい。
ミスにはドクター、ナース問わず叱りつけたりするから、彼のことを苦手とするスタッフは多い。
私も新人の頃はよく叱られた。
仕事以外は結構陽気で私は嫌いじゃない。
「今日夜勤だったんだね。イケメンの歓迎会は欠席か。お気の毒に」
ニヤリと笑う。
「いえ、別に。私は行けなくてほっとしてますよ」
「何で?」
意外そうな顔をする石田先生に私は曖昧に微笑んだ。
幹事はドクター1人とナース2人。
そのうち1人は木村さんだ。
どうせ私の夜勤の日を狙って歓迎会の日程調整したんだろう。
別に参加したいと思わないし、むしろ仕事で欠席の方が気が楽だ。
「ふぅん。女性の世界は大変だね。藤野さんは美人だから妬まれることも多いだろうし。で、何?その指示伝票の山は?」
「どうやら早く歓迎会に行きたかったお姉さま方が勤務時間に処理しきれなかった分を夜勤者に回したらしい指示伝票です」
そこでまた私ははぁーとため息をついた。
「そうか、それでそのため息だったのか。理解したよ」
苦笑して「お気の毒に」となぐさめてくれた。