あなたしか見えないわけじゃない

2

日勤が終わり、更衣室でスマホを見ると彼からメッセージが入っていた。

『今日は同級生や後輩と食事会になったから、夕食はいらない。軽く夜食をよろしく』

『OK お魚たちと待ってるね』
と返信して病院を出た。

自分のアパートには寄らずに車に乗り込む。

さて、買い物だ。
彼のマンションの駐車場に車を停めて近所のスーパーに歩いて行く。
何にしようかな。

お酒を飲んでくるだろうし、胃の負担にならないようなもの。うーん。

スーパーに向かって商店街を歩いていると
「そこのおねーさん!今日はカツオがおすすめだよっ!」
威勢の良い声をかけられる。

振り向くとお魚屋さん。
ねじりはちまきに黒のエプロンで長靴をはいたおじさん。
昔ながらの由緒正しい、正統派の魚屋さんだー。
何だか懐かしくてうれしい。

「おねーさん、カツオどう?鯛も鯵もいいのが入ってるよ」

カツオか…。よしっ。

「おじさん、カツオのたたきもある?」

「ハイよっ。たとえ無くてもおねーさんの為におじさん作っちゃうから大丈夫!」

ふふっ。
軽快なおしゃべりも楽しい。

支払いをすると
「こんなきれいな奥さんじゃ、旦那さんは幸せ者だなー。また、うちのお店でお魚買って旦那さんに美味しいご飯を作ってやってよー」
なんて営業文句を並べる。

お世辞ってわかっていても何となく嬉しいものだ。

他のものはスーパーで買ってご機嫌になって足取りも軽くマンションに戻る。

こんな風にここで一緒に暮らしたら、この商店街で買い物をして、お店の人と仲良くなったりして…なんて妄想が膨らむ。
奥さんって言われた。
旦那さんは幸せ者だって。
結婚かぁ。近い将来したいなぁ。
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