あなたしか見えないわけじゃない
ソファーではなくクッションを抱えてラグに座り、すっかり明るくなった窓の外をボーッと眺めていると彼が帰宅した。
もうすぐ朝6時半になる。

「え?藤野、起きてたの?ごめん、ごめん」
リビングでクッションを抱えた私の頭を撫でる。

「もう朝だよ。連絡もないから心配したんだけど」
口をとがらせて文句を言う。

「盛り上がってたんだから仕方ないだろ」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してごくごくと飲み干して「冷蔵庫にミネラルウォーター補充しといて」と言う。
私が寝ないで心配していたのに。そんなことどうでもいいだろって態度に驚く。

「連絡くらいしてくれたっていいのに」

「あー、盛り上がってたからさ。悪かったって言っただろ。藤野、もういいから寝ようぜ」

そう言って私の腕を引っ張りベッドに連れて行く。
乱暴にワイシャツとスラックスを脱ぎ捨て下着姿になると私を抱き寄せた。
背中抱きにして私を腕の中に閉じ込めたと思ったらすぐに寝息に変わった。

……うん?
お酒とタバコの匂い以外に香水の香りがする。
彼を起こさないように身体の向きをゆっくり変えて彼と向かい合う。

女の人も一緒だったんだ。
同級生って聞いてはいたけど、メンバーは聞かないし聞いてない。

気にはなるが、私も疲れていた。
すーすーと眠る彼の唇に軽くおやすみのキスをする。

「んんっ……お…り……おり」
彼が呟く。寝言かな。
珍しく『志織』って呼んでくれた。

……そう思った。



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