あなたしか見えないわけじゃない


今日は朝から忙しい。
次々に入室要請があり、重症度の低い患者さんから各科には転棟をお願いして、空床を作成していた。

朝の各科の回診時間でもあり、ICU内には多くのドクターがいた。
「ねえ、あなた。藤野さんってどの子?」

振り向くと見たことのない20代後半のきれいな女性。
身長も私より3~4センチ位高いかな。スタイルもよく髪もキレイにセットされている。
ICU内専用ドクターガウンを着ているから女医さんらしい。

「はい、藤野は私ですが、何か?」
私の担当患者の新しい担当医だろうか。

彼女は私を上から下までじろじろと失礼な位見つめて、その目を細めて「へぇー」っとひと声放った。

はぁ?何よ「へぇー」って!

私の表情の変化に気づいたのだろうに鼻でふっと笑い
「あなたが藤野さんなんだ」
バカにしたような笑い方にカチンとくる。

しかし、こんな時の対応の仕方は洋兄ちゃんの姉の久美さん直伝の笑顔で反撃。

「はい、ナースの藤野です。何か御用でしょうか?」
おへそのあたりに力を入れてスッと姿勢を正す。
口角をキュッと上げ密かに自慢のぱっちり二重まぶたの目を軽く三日月型にして笑顔で相手の目を見る。

私の95点の微笑み。どうだっ!
マイナス5点は心がこもってないこと。

私の引かない態度にムッとしたのか、ふんっと鼻を鳴らして「別に」とどこかの女優のような捨て台詞でICUを出て行った。
アナタ、どこの誰だか知らないけど一体何しに来たのよ。

でも、久美さん直伝の笑顔で撃退終了。
不愉快だわと思っていると、ふいにシーツを抱えた後輩ナースが声をかけてきた。

「藤野センパイ、見てましたよ-。あれ、内科に来た新しいドクターでしょ?あの人とセンパイってどういう関係なんですかぁ?」
今から新しい入室準備をするらしい。

「私も手伝うよ」と一緒に空きベッドに向かいシーツのセットを手伝う。

「どうもこうもないわよ。あれは誰?」

「確か、血液か内分泌に来た新しい美人ドクターです。内科じゃ噂ですよ。男のドクターやスタッフには媚びて、女のナースや事務スタッフには上から目線で使い分けてるって」

「げっ」

「何で私の名前を知ってたんだろう」

「えー、藤野センパイきれいだから敵認識?」

「やめてよ。きれいじゃないし、勝手に知らないとこで敵にされたらたまらないわ」

「女医のターゲットが藤野センパイとかぶってるとか?それともお相手が藤野センパイのことをキレイとか褒めちゃったとかでプライドを刺激されたとか?」

「仮にそうだとしても、私は悪くないじゃん」

「美人の宿命ですよ。諦めて下さい。仕方ないですよ、きれいで普段は得してるんですから。有名税っていうか美人税」きゃっきゃっと笑っている。

美人税なら明らかな美人に生まれてきたかったよ。私なんて目が大きいだけだしと思う。
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