あなたしか見えないわけじゃない

3

それはいきなりだった。

水槽の水替えを一緒にしていた時。

「藤野。俺、車を買うからマンションの駐車場は使えなくなるよ」

「え?いつ?」

「来週納車」

「いつ買ったの?」

「ちょっと前」

もう少し早く話をしてくれるとか、相談してくれたっていいのに。私はあ然とした。

「藤野はこっちで駐車場借りるか電車で来て」

「あ、うん…」

私は海水でベタベタになった用具とタオルを洗いながら頷いた。

都内で駐車場を借りられるお金なんかあるはずなんてない。
ただでさえ、私は横浜で駐車場を借りている。自分のアパートの家賃だってあるし。車のローンだってある。
……電車で来よう。

最近、彼が何を考えているのかわからない。

大学の同級生との飲み会も増えて「来なくていい」メッセージもたびたび。

かと思えば「藤野のご飯が食べたい」と夜中に電話で呼び出したり。

「牛乳がない」とか「クリーニングに出してない」とか文句を言われる事もある。
私はヨメでも母でもないんだけど。

散々文句を言った後でも、私を抱きしめて眠る。そんな事をされると私も彼の腕の温かさに負けてしまうバカ女だ。


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