あなたしか見えないわけじゃない

 歓迎会

今日は月に一度大学病院から三村先生の来る日だ。

2年前までは常勤医としてこの病棟にいたが私と入れ違いで大学病院に戻っていたから、私は一緒に働いた事が無い。

今年30才になる超イケメンドクターだ。
人柄も良く、一緒に働いていたナース達とはたまに飲みに行ったりしているらしい。

外来が終わると必ず病棟に顔を出す。

「この後飲みに行こう」

小出さんに声をかけていた。
小出さんもいつものメンバーに声をかける。それは4年目5年目のナース。
その他の人に声をかけないのはイジワルじゃない。
同期会みたいなものだから。

「あ、今日はあいつも連れて行くから」

三村先生はイケメンドクターを指差した。

「あいつ、俺の後輩。サークルも一緒だったんだ」

そんな話がチラッと聞こえた。
そうか、今日は飲み会か。

女の世界を上手に渡り歩くためにはたまには面倒なことをする。
私もやっと最近は世渡りということを覚えたのだ。

早速、木村さんを見つけて声をかける。

「木村さん、私がお手伝いできる処置って何かありますか?」

木村さんは「え?」と怪訝な顔をした。

「今日は恒例の三村会って小耳にはさんだので。定時で上がれるように私にできる仕事はお任せ下さい」
にっこりして言った。

途端にぱあっと明るい表情になり「いいの?嬉しい」と私に仕事を割り振ってきた。

「これとー、これとぉ、これは任せられるからぁ~」

おい、どんだけ押し付けるつもりなんだ、とは言えず。

「頑張ります。先輩は楽しんで来て下さいね」

「ありがと。あんたなかなかいい後輩じゃん」

そう言って鼻唄を歌いそうな勢いでナースステーションに戻って行った。

こんな事位でこの先の職場環境が良くなり、私の仕事がやりやすくなるなら、やってやりますよ。
木村さんの背中に心の中で舌を出した。

< 8 / 122 >

この作品をシェア

pagetop