あなたしか見えないわけじゃない
留学から帰国して元彼に会いにいったら、新しい彼女に夢中になっていた。

同じ病院で働くことになって、どんな女かと見に行ってみたらかなり美人だった。周りに聞いても明るくて面白くて仕事もできるという。

それから、金持ちの父親や教授に元彼との縁談を頼んだり、私に仕事のミスをでっち上げたりと嫌がらせをした。

元彼を取り戻すこと、私の評判を落として追い出すことが目的だった。

「香取先生は大学時代も才色兼備で有名なお嬢さまだったよ。ボート部のマネージャーをしていて周りには三村先生や周先生のような俳優のような男子学生に囲まれていたから、いつの間にか自分を見誤ったんだろう」

木田先生は慌てて付け加えた。
「もちろん、藤野さんにしたことは許される事じゃない。指示出しに関しても一歩間違えば患者さんに迷惑がかかる大変なことになるところだったんだから。香取先生にはこの病院を辞めてもらった。君には納得できないと思うけど、処分は教授に任せることになる」

そうか。
彼女は海外留学していずれは大学病院に戻りそれなりの地位につく超エリートだ。医局の問題は教授の管理下で処理されるのだろう。

「私はそれで結構です」

それにしても、
解決したというのに気持ちが重い。
揉めた原因のひとつが男女関係ってところにやはり抵抗感がある。
だから、職場恋愛やモテる男に近づくのはイヤだったんだ。過去には戻れない。振り返り反省するしかない。
私は恋愛に向いていないのかもしれない。


それから私に日常が戻ってきた。
ICUと中央採血室、夜勤業務。

あれから1度だけ外来で周先生を見かけた。
香取先生と結婚するんだろうか。

私という恋人がいても自宅に連れ込んだほどの女性だし、出世街道を外れたといっても実家はかなりのお金持ちらしいし、美人だし、何より自分のことを強く愛してくれている香取先生を手放す必要はないだろう。

ま、もう私には全く関係ない話だ。

それでも、彼の姿を見ると堪えた。
傷ついた心はそう簡単には癒えない。まだまだ時間が必要だ。
あれから携帯電話は新しい番号で契約して、職場関係にはほとんど教えていない。
知っているのは、師長と早川と木村さんくらい。
念のため、彼の番号は着信拒否になっている。
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