あなたしか見えないわけじゃない
「何を言っているの?」
「お願いだ。俺とやり直してくれ。やっぱり藤野じゃないとダメなんだ。キミがいなくなって自分がどれだけキミに支えてもらっていたのか、キミがどんなに支えてくれていたのか気が付いた」
え?
「キミの荷物が無くなってすぐに、俺の寝室のゴミ箱から藤野の割れたり折れている化粧品やビリビリに破れた部屋着を見つけたよ。
藤野は例え捨てるにしてもそんなことはしない。他の荷物は綺麗に無くなっていたし、浴室から冷蔵庫の中まで部屋の掃除までされていた。
寝室のベッド周りだけ触れられた気配が無かった。だから、寝室のゴミ箱の事は藤野も知らないんじゃないのか?」
そうだ。
愛する人のベッドに他の女性が寝た気配があった。
私は別れを決意していたけど、そこだけは触れるのもイヤだった。
だから、ベッド周りには近寄らなかった。
そうか、無くなっていた化粧品と部屋着はそこに捨てられていたのか。
「伊織じゃダメなんだ。藤野と一緒に過ごした落ち着いた日を取り戻したいんだよ」
そこにいつもの強気な周布先生の表情は無かった。
「私はもういらないから」
しっかりと目線を合わせた。
「言ったはずだよ。もう遅いの。私はもうあの頃の私じゃないから」
私の腕をつかんでいる彼の手を優しく反対の手で握ってほどいた。
「私は今、1人の大人として自分の足で立っているつもり。あの頃のようにあなたしか見えてないわけじゃないの」
「藤野…」
「香取先生はどうしたの?ああ、でも私は知る必要がないわ。だから、聞かない。私には関係ないから」
しっかりと視線を合わせた。
「さよなら。もう会わない」
「待って、藤野。そんなのダメだ。俺は今でもキミがいいんだ。キミと一緒にいたいんだよ」
周布先生の必死な姿を初めて見る。
そんな顔もできるんだね。
でも、私の心は冷えていた。
「言ったでしょ。その言葉はあの時に聞きたかったって。今さら遅いのよ。もう私は振り返らない。泣いて周布先生の帰りを魚と待ってたあの頃には戻りたくない」
キッパリと強く言った。
「藤野、頼む。何度でも謝るから。戻ってきてくれ」
周布先生もスツールから立ち上がり、私が逃げないようにまた腕を取ろうとするからスッと避けた。
「もう、あなたしか見えないわけじゃない、そう言ったはずです」
今度こそ本当にさよなら。
「あ、ここは周布先生がごちそうしてね。それで終わりにしよう」
少し口角を上げて伝えた。
「それと、私ね、本当は『藤野』じゃなくて『志織』って呼ばれたかったんだよね。
じゃ、周布先生、さようなら。お幸せに」
周布先生の顔は見ないで店を出た。
最後にあの人はどんな顔をしていたんだろう。
でも、もういい。
言いたいことは言えた。まさか『戻って来て欲しい』なんて言われるとは思わなかった。
一方的に捨てられたと思っていたから。
女として底辺まで落ち込んでいたけど、その言葉で少し
女のプライドが上昇した感じだ。
まぁ、戻るつもりは全くない。だって、私はもう前を向いて歩いている。
駅までの道を歩きながら、久しぶりの夜の横浜の街の喧騒を楽しんだ。
島にはない賑わいだ。
島の穏やかな夜に馴染んでいたから、新鮮に感じる。
さぁ、洋兄ちゃんのマンションに帰ろう。
「お願いだ。俺とやり直してくれ。やっぱり藤野じゃないとダメなんだ。キミがいなくなって自分がどれだけキミに支えてもらっていたのか、キミがどんなに支えてくれていたのか気が付いた」
え?
「キミの荷物が無くなってすぐに、俺の寝室のゴミ箱から藤野の割れたり折れている化粧品やビリビリに破れた部屋着を見つけたよ。
藤野は例え捨てるにしてもそんなことはしない。他の荷物は綺麗に無くなっていたし、浴室から冷蔵庫の中まで部屋の掃除までされていた。
寝室のベッド周りだけ触れられた気配が無かった。だから、寝室のゴミ箱の事は藤野も知らないんじゃないのか?」
そうだ。
愛する人のベッドに他の女性が寝た気配があった。
私は別れを決意していたけど、そこだけは触れるのもイヤだった。
だから、ベッド周りには近寄らなかった。
そうか、無くなっていた化粧品と部屋着はそこに捨てられていたのか。
「伊織じゃダメなんだ。藤野と一緒に過ごした落ち着いた日を取り戻したいんだよ」
そこにいつもの強気な周布先生の表情は無かった。
「私はもういらないから」
しっかりと目線を合わせた。
「言ったはずだよ。もう遅いの。私はもうあの頃の私じゃないから」
私の腕をつかんでいる彼の手を優しく反対の手で握ってほどいた。
「私は今、1人の大人として自分の足で立っているつもり。あの頃のようにあなたしか見えてないわけじゃないの」
「藤野…」
「香取先生はどうしたの?ああ、でも私は知る必要がないわ。だから、聞かない。私には関係ないから」
しっかりと視線を合わせた。
「さよなら。もう会わない」
「待って、藤野。そんなのダメだ。俺は今でもキミがいいんだ。キミと一緒にいたいんだよ」
周布先生の必死な姿を初めて見る。
そんな顔もできるんだね。
でも、私の心は冷えていた。
「言ったでしょ。その言葉はあの時に聞きたかったって。今さら遅いのよ。もう私は振り返らない。泣いて周布先生の帰りを魚と待ってたあの頃には戻りたくない」
キッパリと強く言った。
「藤野、頼む。何度でも謝るから。戻ってきてくれ」
周布先生もスツールから立ち上がり、私が逃げないようにまた腕を取ろうとするからスッと避けた。
「もう、あなたしか見えないわけじゃない、そう言ったはずです」
今度こそ本当にさよなら。
「あ、ここは周布先生がごちそうしてね。それで終わりにしよう」
少し口角を上げて伝えた。
「それと、私ね、本当は『藤野』じゃなくて『志織』って呼ばれたかったんだよね。
じゃ、周布先生、さようなら。お幸せに」
周布先生の顔は見ないで店を出た。
最後にあの人はどんな顔をしていたんだろう。
でも、もういい。
言いたいことは言えた。まさか『戻って来て欲しい』なんて言われるとは思わなかった。
一方的に捨てられたと思っていたから。
女として底辺まで落ち込んでいたけど、その言葉で少し
女のプライドが上昇した感じだ。
まぁ、戻るつもりは全くない。だって、私はもう前を向いて歩いている。
駅までの道を歩きながら、久しぶりの夜の横浜の街の喧騒を楽しんだ。
島にはない賑わいだ。
島の穏やかな夜に馴染んでいたから、新鮮に感じる。
さぁ、洋兄ちゃんのマンションに帰ろう。