あずゆづ。
気になって……仕方ない。
「あーくそ!! くそっ!! 思い出したらまたイライラしてきやがった!!!」
頭の中にあるモヤモヤ、どうしようもないイライラを振り払うように、首をぶんぶんと左右に振る。
「ちょっとゆづ。準備できたなら入るよ?」
「あ!? 勝手に入れよクソ姉貴!!!」
イライラに任せて更衣室のドアの向こう側にいる姉貴に対してそう言うと。
ギシギシと音を立てて、静かに開けられるドア。
「…ゆ~づ~きぃ~……」
「!!」
そこから顔を出してきたのは、幽霊のように長い前髪を垂らして、その髪の間からギロリと目を光らせている姉貴。
……俺が唯一、刃向かえない相手だ。
「ねーちゃんに向かってその口の利き方はなんだ? ああ!?」
「……っせーバァカ!!!」
「バァカはてめーだろバカゆづき!!!!」
たらたらした紹介なんていらない。
姉貴は……こういう女だ。
女だけど、口が悪い。
「いいからさっさとすわんな!! 時間ないんだから!!」
そう言って、近くにあった椅子に無理矢理俺をドカッと座らせると、姉貴は慣れた手つきで俺の顔に化粧水をつけてきた。
途端に、大きなため息をつく姉貴。
「女顔負けのいい肌してるよな、ほんとムカつくわー……死ねばいいのに」
「死ねばいいのに!?」
こうして、言いたい放題言い合いながら、バイト前に姉貴が軽く俺に化粧をする。
ただでさえ目つきが悪いからって、姉貴がやり始めた。