あずゆづ。
しばらくして、姉貴がパンっと両手を鳴らした。
それを合図に、俺は閉じていた両目を開ける。
「よ……っし、こんなもんか!」
「……」
姉貴が納得するまで化粧をされる。
その姉貴が「よし」と言ってやめたということは、納得のいく顔になったということだろう。
だから別に鏡なんて見ないし……というか、なんなら見たくない。
「ぶすくれてないでさっさと仕事しろ!」
「ってえ!!」
女とは思えない力で背中を思いっきり叩かれる。
「ち…っ」
軽く舌打ちをしながらホールに出ると。
放課後の時間だけあり、女子高生の人数が増えてきていた。
「かわいい~っ!!」
「マジ映え~っ!!」
きゃっきゃとはしゃぎながら、出された甘ったるいデザートの写真を撮っている。
中には、物好きなどっかの男子高生もいる。
「…………うぜぇ」
空いたテーブルに置かれている、食べ終わったあとの食器を片付けに入った。
しかし、俺に対して視線なんて集まることなく、みんなデザートに夢中だ。
……よくもまあ、こんなんで男だってばれねえもんだな、とつくづく思う。
客はそんだけ、食いもんにしか目が行ってないってことか。
そりゃそうだ。
うちのメニューはそりゃあ気持ち悪い名前の商品ばっかりだ。
見た目も派手なもんばっかだから、女子たちはみんな食う前に写メを撮ってる。
片付ける側としてはさっさと食って帰ってもらいたいところだ。
―――ガランガラン…
入り口のドアが開かれ、そこに吊るしていた鈴が鳴る。
また、物好きな客が入ってきたことを知らせる音だ。