あずゆづ。

「あの、長い金髪の女の人、すごい綺麗!」


……この店内に、あいつらの言う『長い金髪の女の人』は、二人いる。


「え、どれどれ?」


その二人というのは……バイトの女と、俺だ。

バイトの女は、俺より少し遠くにいる客の注文をとっていた。


「あの人だよあの人! 今、食器を片付けてる人!」


おい、『今、注文をとっている人』の間違いじゃねーのか?


「わ、ほんとだすごく綺麗な髪! でも遠くくておんまりよく見えなーい!」


気のせいか。

あいつら俺を指差してねえか。


……おい何してんだよメガネ女、さっさとあいつらの話題を俺から変えろよ!


早くなんとかしろと言わんばかりに、俺はメガネ女の方を見る。

しかし。

メガネ女はというと、さっきまで泣きそうなツラをしていたくせに、今はとても嬉しそうにニヤニヤしとしていた。


おいおいおい、ふざけんな。

キモくてもなんでもいいから、とっとと早く話題変えろよ!!!!!!


「わ、私お水持ってくるね」


俺の念が通じたのか、唐突にメガネ女がそう言って立ち上がったときだった。


「え、俺も行くよ」


悠太も立ち上がって、メガネ女に向かって微笑みかけた。


「………っ」


その光景に、ひどくイラッときた。


「ちょ、ゆづ!」


いつの間にか俺の隣に来ていた姉貴に、そっと小声で話しかけられる。


「ちょっとあんた! お盆お盆!!」

「あ?」


姉貴に言われて、やっと自分が今持っているお盆へと視線を移す。


「ヒビ入ってるじゃない!!」

「!!」


無意識に手に力が入りすぎてしまっていたようだ。

き、気づかなかった。


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