あずゆづ。
お会計ですか?
*優樹side*
「おーいゆづー?」
だるそうな声に、名前を呼ばれた。
返事をする代わりに、手だけをそちらへと伸ばす。
「顔、いつも以上に怖いよ」
そう言って、箱の中から金髪のヅラを取り出したその女は、俺の姉貴だ。
しかし、どうにもイライラがおさまらない俺は、ただ呼ばれただけなのに声を荒らげる。
「っせんだよ!!」
なんでだ。
なんでこんなにイラつくんだ。
俺は、姉貴から渡された金髪のヅラをかぶる。
それを確認した姉貴は、更衣室の外へと出て行った。
……暑ッ苦しい……!!
それが余計に俺を苛立たせた。
……いや、もともと俺はこういう奴だった。
気づけばいつも……常に苛ついていた。
こうやって名前を呼ばれるだけで苛ついて。
何に対して苛ついていたかなんてわからないけど。
とりあえず、周囲に対しては、俺に近づくなオーラを放っていた。
「…………」
―――『ゆづくん』
あの、メガネ女が俺のそばにくっつくようになってから、いつの間にかいつもあったその苛立ちはなくなってた。
「…チッ」
別に。
……アイツなんか、もともと俺の何でもないのに。