君がいなくなるその時は
prologue
わたしは一度、”死”を目の前に見たことがある。
それは、小学一年生の頃。
学校で水泳の授業があった日。
その日は晴天で、プール開きには丁度良い日だった。
水泳は決して得意ではなかったが、わたしは暑い暑い夏の日に冷たい水に浸かるのをとても楽しみにしていた。
授業の目的が終わり、待ちに待った自由時間の時。
授業内容ですでに疲れてしまったわたしは、一旦プールサイドへ上がろうと思っていた。
その時だった───。
『おいやめろよー!』
─ドンツ
『キャッ!』
それはいきなりのことで、小学一年生のわたしにはあまり分からなかった。
でも、気づいたらわたしは水の中にいた。
足がプールの底に着かず、水の中で暴れていた。
そう、わたしはプールで溺れていたのだ。
身長が低めだったわたしは、もともと水の高さが顔ギリギリだったため、足が着いていない状態で顔を出すのは到底無理。
『たすけて』の”た”の字も出てこないほど苦しい状況だった。
あぁ、もうだめなのかな。
小学一年生のわたしでも、あの状態はもう死の直前だと思った。
だめだ、もう無理かも。
そう思ったその時。
『きいちゃん!きいちゃん!』
わたしの名を呼ぶ声が、どこかから聞こえた。
と同時にわたしの腕は誰かの手によって引っ張り上げられた。
『ブハッ!』
『ハァハァハァ………ゲホゲホッ!』
『きいちゃん!もう平気だよ。………大丈夫?』
わたしはヒーローだと思った。救世主だと思った。
同じクラスで家も近い、河野大聖が助けてくれた。
声も出せないほど苦しくて水の中で暴れるしかできなかったわたしを、引っ張り上げて助けてくれた。
わたしはもう嬉しくなって、なんだか分からなくなって、大泣きした。
『グスンッ………ひくっ………うぇぇ〜ん!…うぅ…』
『よしよし』
わたしは怖かった。もう死ぬんだ、死んじゃうんだと思って。でも、大聖が助けてくれた。怖かった涙と安心の涙が溢れて止まらなかった。
『……………ッ…グスンッ…あっ…あり……ひっく…が、とっ…』
『うん』
それからわたしは、河野大聖ととても仲良しになった。
そう、わたしと彼は今、幼なじみだ。
河野大聖は本当に頭が上がらない幼なじみだ。だって、わたしの命の恩人だもん。
あの日の出来事があって、わたしは水が苦手になった。
けど、あの日をきっかけに、大切で大事で大好きな幼なじみができた。
あの日の出来事に感謝したいとは思っていないが、あのときからわたしと大聖の幼なじみが始まった。
わたしは家族と同じくらい、幼なじみである河野大聖が大切。
だから、もしものことがあったら───
わたしは身代わりになってでも、彼を助ける──そう決めたんだ。
< 1 / 14 >