君がいなくなるその時は
黒い服に黒いズボン。黒い髪に黒い靴。
全身真っ黒の謎の男。
「え、えええっふ、不審者?!」
「は?ちげーよ」
「え、ちょ、お、お母さん!お母さん大変ちょっと来て!へ、変な人がいる!不審者!お母さん警察!」
「ばっ!…お前声でけー」
「はっ?ちょっ、なに?!来ないで!」
謎の黒い男がわたしの方に近づいてきた。
わたしは怖くなって、とっさにベットに置いてあった枕を男に投げつけた。
だけど綺麗にかわされてしまった。
「…なっ、何が、目的なのよ!………もしかして空き巣?!」
「ちげーよ」
「じゃっ、何?!」
何かしら武器を持たないと、そう思い、机の上にあったハサミを片手に男に突き出した。
「っあぶねっ。ずいぶん凶暴だな」
「……お母さん!不審者!」
「だから、お前は声がでかいんだよ」
「は?何なのアンタ!ア、アンタなんか、もうすぐ、警察いきなんだからね!」
「あーそうですか」
何コイツ?頭おかしいんじゃないの?なんでそんな余裕そうなの?女子高校生を舐めやがって!
──ドンドンドンッ
階段からお母さんが上ってくる足音がした。
「あ、お前。親から変な目で見られるぞ?」
………何言ってんだコイツ。それはアンタでしょ?
「お母さん早く!」
──ガチャ
「なに希生朝から!どうしたの?!」
「お母さんそこ!そこに不審者が…!」
わたしはギュッと目を瞑りながら謎の男を指さした。
「………は?希生、どうしちゃったの?」
「…え?」
目を開いた私はギョッとした。
目の前にいる謎の男がニヤッと口角を上げてわたしを見ている。
それはとても余裕そうに見える男の顔であった。
「…そ、そこにいるじゃん。目の前に!」
「希生…、頭でも打った?そんなもんいないじゃない」
「え、なんで?いるじゃん!」
おかしい。だって男はわたしの目の前にいるのに。お母さんにも見えるはずなのに。
もしかしてお母さんには……見えてないの?
「もう朝から騒いじゃって、今日も学園祭あるんだから早く準備しちゃいなさい。朝ご飯ももうすぐでできるから」
「え、ちょ、お母さん…」
──ガチャ
ウソ、でしょ。なんで…?
「………」
唖然としてたわたしに男が近づいてきた。
「どうだ、見たか?言ったろ?親から変な目で見られるぞって」
「…お、お母さん、には、………見えてない、ってこと?」
「まぁ、そーなるな」
謎の男は普通の顔をしてやがる。
こんな状況で普通でいられないのはわたしだけ?絶対おかしい。なんでわたしには見えてお母さんには見えないの?もしかしてコイツ……
「お、お母さんになんかしたでしょ!」
「は?なんでそーなるんだよ」
「だっ、だって…!おかしいじゃん、なにこれ」
「まぁ、俺は別に怪しいもんじゃないから、安心しろ」
はぁ?アホだこの人。
こんな状況で安心できるかっての。しかもこんな奴が急に部屋に現れて、土足で上がってきてるしお母さんには見えてないし、怪しくないって思える人いないだろ。
「俺は、お前にしか見えないから」