過保護な騎士団長の絶対愛
※ ※ ※


 その頃。

 ユリウスは、王都の中心街に住むイザベルを訪ねていた。イザベルの住んでいるところは賑やかな人通りの多い場所から小道に入った裏路地にある。まだ太陽は出ているというのに、左右に挟まれるように立つ建物の壁のせいで、いささか薄暗く陰気に感じる。


「それで? 舞踏会の変装劇はうまくいったの?」

 イザベルが揶揄を含むと、そんな軽はずみな挑発には乗らない、といったふうにユリウスは平然と言った。

「別に、問題ない」

 ユリウスはいつものように木の椅子に座ると、コツリとブーツの踵を鳴らして長い脚を組んだ。
 イザベルの部屋には窓はあるが、黒い布で覆っていてあまり光が入ってこない。本人はこういう雰囲気の方が好みだという。鎮静効果のある香の香りが漂い、この空間だけはいつ来ても異質な感じがした。

「それにその右腕、どうしたの? 服の上からでも腫れ上がっているのがわかるわ」

 ユリウスは、自分が薄手の長袖をきていることにいまさら気づいた。しかも、バツの悪いことにイザベルに気づかれてしまった。なんでもない、と言い誤魔化そうとしたが、化膿でもしたら厄介だ。
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