過保護な騎士団長の絶対愛
 昨夜の回想から我に返り、ふと、ユリウスはララと交わした抱擁のぬくもりを思い出す。王女を抱きしめるなどと、許されることではないのはわかっていた。素顔がわからないことをいいことについ、ユリウスは我を失い、ララを抱きしめてしまった。溢れ出る愛おしさを抑えることができなかった。

 ユリウスにとってララは庇護欲にも似た忠誠心を掻き立てるには十分すぎるほどの魅力を兼ね備えていた。

 ララが危険な目に遭った時、震える彼女に安堵を与えるため、抱き留めたことはある。けれど昨夜の行動は、明らかに煩悩だった。

 清く大きな心を持つララに初めて会った時からユリウスはずっと彼女に惹かれていた。けれど、それはけして伝えてはならない想いだった。かつて、コルビス王国を襲撃した国の王族であったことなど、ララに知れるところとなればきっと自分を恐れるだろう。はたまた恨まれるだろう。だから自分の素性はずっと隠してきた。しかし、それもいつかはララの知れるところとなるかもしれない。


 もし、その時が来たら――。

 なにを弱気になっているのだ。とユリウスは首を振り、現実を見つめる。

 自分の宿命はララ様をお守りすることだけ――。

 そう思いながら窓に映る自分の顔をじっと眺めていると、一羽の白い鳥がすぐ傍に立つ木の枝にとまった。


「あれは……」

 イザベルの肩にいつもとまっている小鳥だ。なにか言いたげにちょんちょんと枝の上を行ったり来たりしている。


 ――王都のことは何かわかり次第、この子を飛ばすわ。


 ふと、イザベルが以前言っていたことを思い出した。なにか王都のことで耳寄りな情報がわかったに違いない。
 ユリウスは支度をすると、イザベルのいる王都へ急いだ。
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