王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 見上げるフレイザーの表情は陰って暗く、自分よりも強大な力を感じさせられる。


「あの娘と同じように私に組み伏せられるとは、この年になってもまだまだ青臭い子どもだな」


 マリーが今と同じ状況を味わったのだと知らされ、ウィルの怒りが沸点に達した。


「フレイザー、貴様……ッ! マリーに何をした!!」


 握り潰されんばかりに押さえられる腕を渾身の力で振りほどく。

 抵抗の余力に驚いたのか、フレイザーは刹那に目を開き、ウィルに振り落とされる前に自らソファを離れた。

 ウィルでさえも抗うために力を使うのに、か弱い令嬢が同じようなことをされては、酷い恐怖に苛まれたに違いない。

 彼女の気持ちを思うと、その状況から救ってあげられなかった自分と、目の前の野望に満ちた黒い男にたまらなく腹が立った。
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