王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「さあ、果たして、貴殿が王太子だと名乗られたとき、……あの娘が今まで通り、“ウィル”として接してくれるかどうか、見ものでございますな」


 物言いこそ丁寧ではあるけれど、それが逆に馬鹿にされているようで、ウィルはフレイザーをきつく睨みつける。

 口角を吊り上げ愉快そうに肩を揺らすフレイザーは、振り返ろうとした身体をにわかにピタリと止める。


「……何か殿下に無礼でも働かれましたか、フレイザー様」


 背後から忍び寄って来ていたミケルは唸るように呟き、刺すような目つきでフレイザーを睨む。

 フレイザーの背中には鋭利な切っ先が当てられ、今まさに血肉をつんざかんとばかりに光っていた。


「ミケル、よい」


 ウィルは忠実な家臣の従順さと優秀さにあらためて感心し、剣を収めるよう制する。


「相変わらず、腕が立つなミケル」


 睨みをきかせたまま素直に剣を仕舞うミケルから、フレイザーは少しの動揺も見せずに離れた。

< 104 / 239 >

この作品をシェア

pagetop