王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 おそらくフレイザーはこれからイベール家に、婚約を取り付けるのだろう。

 そしてそれを、イベール家が断る理由はない。

 先手を打てない自分が腹立たしい。

 本当なら今すぐにでも、マリーを奪いに行きたいのに。


「ウィリアム様」

「なんだ……」

「さしでがましいようですが、成人祝賀の準備に王城内を初め、関係各所では当日まで多忙を極めます」

「ああ、わかっている。明日から儀式の段取りを詰めるのだったな」


 自分の不甲斐なさとこれからの予定にうんざりと溜め息を零す。

 けれど、ミケルは主の焦燥を汲んでいる様子で、穏やかに微笑んだ。


「聖堂では司祭も加わり、ウィリアム様のためだけに準備が進められています。その間、聖堂も司祭も他の催事に時間を割けません」

「そうだな、俺のためにみなが動いてくれて……」


 そこではっとしたウィルは、勢いよくミケルを見上げた。


「ミケル」

「はい」

「俺はいつから国王に進言できる?」

「成人の儀を終えれば、その瞬間からかと」

「そうか……」


 にこりと微笑むミケルに気づかされたというところは、まだ自分の未熟さを認めざるを得ない。

 しかし、まだ諦める必要はない希望の光に、ウィルはサファイアの瞳を煌めかせた。




.
< 106 / 239 >

この作品をシェア

pagetop