王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 ウィル……貴方に会って、この気持ちを伝えたい。


 くじけた心に再び火を付けてくれたのは、やはり彼を想う気持ちだ。

 マリーは不安ながらも街の中へと足を踏み出す。

 すると足にずきりとした痛みを感じた。

 足元を見下ろし、いつの間にか擦り切れほつれていたドレスの裾を持ち上げる。

 そこから覗くのは、ヒールこそ低いけれど、とても外を歩くためには作られていないきらきらとした靴。

 長距離を歩いたことのないマリーの足は、当然に靴擦れを起こしていた。

 足がボロボロになっていることに気づかないほど、夢中でここまで歩いてきた。

 
 こんなの、大したことないわ……。


 ぐっと口唇を噛んで、痛む足を進める。

 心を持ち直し、顔を上げたマリーの視線と目を合わせたのはエプロン姿の女性。

 パンや野菜の入ったかごを小脇に抱えたその人に、意を決して話しかける。


「あの、すみません……」


 声を掛けられるとは思わなかったのか、女性は一瞬ぎょっとしてからマリーの足元から頭までを見た。

 不思議そうに数回瞬いてから、何か尋ねようとしているマリーに「どうしました?」と優しく答えてくれた。



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